
社会や産業の構造はかつてないスピードで変化しています。地政学リスクの高まりやサプライチェーンの分断など、企業を取り巻く不確実性も増しています。未来を正確に予測することは難しくなり、企業には変化を的確に捉え成長へとつなげる力が求められています。この変化を成長に転換する力が、企業の競争力を左右する時代になったと感じます。
こうしたなか、当社グループにおいては、これまで以上にリスクの増大や不確実性が高まる一方で、大きな成長機会となる事業環境変化の追い風が吹いています。生成AIの爆発的な普及によってデータセンタ市場が急拡大し、光ファイバ・光デバイス、放熱・冷却製品、機能樹脂製品や半導体関連材料など、当社グループの技術や製品群と市場ニーズとの結びつきが一段と強まっています。株式市場からもデータセンタ関連企業として注目いただくことが増え、当社グループへの期待の高まりを実感しています。この追い風を確かな成長へとつなげられるか、当社グループの真価が問われています。
このたび、当社グループは2030年のありたい姿「古河電工グループ ビジョン2030」(以下、ビジョン2030)の実現に向けて、パーパスを軸とした新たな経営方針を策定し、「ビジョン2030実現に向けた経営方針」として公表しました。事業環境の変化があまりにも速く、固定的な前提条件に基づく計画が短期間で陳腐化する時代背景から、従来の中期経営計画の形式を改めました。
この経営方針では、パーパスを起点に、ビジョン2030の実現に向けて解決すべき6つの経営上の重要課題を特定しました。持続的成長に必要な財務・非財務のテーマを経営上の重要課題として整理し、今後5年間の経営の指針とします。大きな成長機会を確実に取り込むため、データセンタ関連事業※1、再エネ・HVDC※2関連事業、さらに社会課題解決に関わる新規事業に経営資源を集中するとともに、事業・製品ポートフォリオの最適化、労働生産性の向上、人的資本やガバナンス・リスクマネジメントの強化に取り組みます。短期的な業績だけでなく、中長期的な競争力強化を図り、持続的な成長を実現していきます。
投資については、2026年度から2030年度までの5年間で6,500億円を計画しています。そのうち5,000億円を、データセンタ関連事業を中心に、データセンタの普及・拡大とは切り離せないエネルギー問題の課題解決に貢献するHVDC関連事業、また新規事業といった注力分野に重点配分します。
現時点においては、2030年度に連結営業利益 2,500億円、ROE 20%、ROIC 15%という財務到達水準を設定しました。また、連結営業利益2,500億円のうち約2,000億円はデータセンタ関連事業で創出する計画です。このように2030年に向けて、当面はデータセンタ関連の市場成長が当社グループにとっての最大の事業機会であり、成長の柱になると考えています。一方、2030年以降も見据えて、HVDCや新規事業をはじめとした新たな成長の柱となる事業の基盤構築や育成も進めていく考えです。
※1 データセンタ関連事業には、光ソリューション領域のLightera、情報コンポーネント領域のサーマル・電子部品、ファイテル製品、AT(半導体製造用テープ)、メモリーディスク、銅箔、光電融合デバイスが含まれます。
※2 HVDC: High Voltage Direct Current(高電圧直流送電)
ただし、新たな経営方針を策定しても、それを実行できなければ意味がありません。ビジョン2030の実現に向けて、それらを確実に実行するために、大幅な組織変更とともに、経営体制の改革も進めています。
その一つが、2026年度から導入したCXO制です。従来の本部制では専門機能ごとの最適化が進む一方、組織横断での意思決定や経営資源配分に課題がありました。そこでCXO制では各経営上の重要課題の責任者として担当CXOを置き、CEOが担っている権限の一部を各CXOに委ね、各CXOが経営者として全社視点で各専門領域の課題解決にあたります。意思決定の質とスピードをより高め、執行力を強化することが狙いです。
新たな経営体制とともに、変化を迅速に捉え、成長機会を確実に実行へと結びつける経営の力を引き上げていきます。
私が成長フェーズにおいて重要だと考えているのは、人材や技術・知的財産といった無形資産です。企業価値を生み出す源泉は、突き詰めれば人です。私は人をコストではなく、将来の価値を生み出すための投資対象だと考えています。一人ひとりの発想や挑戦する姿勢、実現に向けて行動する力が企業の成長を左右します。だからこそ、従業員がやりがいや貢献実感を持ちながら能力を発揮できる環境づくりを重視しています。また、当社グループが長年培ってきた技術や知的財産も重要です。情報/エネルギー/モビリティといった幅広い領域で蓄積してきた技術基盤は、一朝一夕に築けるものではありません。現在のデータセンタ関連事業をはじめとする注力分野の成長可能性も、こうした技術・知的財産の蓄積があってこそ生まれています。
無形資産は、2030年以降も持続的に成長していくために欠かせない経営基盤です。私は有形資産への投資と変わらぬ重要性を持って、人材や技術・知的財産の強化とその活用により、持続的成長を加速させていきます。
私たちの経営の根底にあるのが、古河電工グループ パーパス「『つづく』をつくり、世界を明るくする。」です。このパーパスを価値創造の起点として、事業を通じた社会課題の解決により、持続的成長と中長期的な企業価値の向上を目指しています。
パーパスの策定から約2年が経過した現在、社内ではその認知・理解は進みましたが、これから重要なのは、従業員がパーパスに共感し、具体的な行動や挑戦につなげることです。企業文化の変革には時間を要しますが、こうした行動変容が組織を変え、その変化が事業の成長や企業価値向上につながると考えています。
また、パーパスを軸とした経営を推進する当社グループにとっては、このパーパスが経営の判断軸となります。これからも経営の意思決定や一人ひとりの行動においてパーパスを体現し、持続的な価値創造を実現していきます。
足元では、当社グループの事業や成長性に対する期待が高まっていると感じています。経営者としては大変ありがたい一方で、私個人としては「好事魔多し」という言葉を常に意識するようにしています。順調に見える時ほど慢心せず、謙虚な姿勢を持ち続けることが重要だと思うからです。
私は、当社グループには大きな可能性があると確信しています。しかし、その可能性を現実の成果へと変えていくのは、これからの実行にほかなりません。変化を恐れず挑戦を続けるとともに、謙虚さを忘れることなく、一歩一歩着実に企業価値の向上に取り組んでいきます。
詳細は、統合報告書2026もあわせてご覧ください。
2026年9月